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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)226号 判決

東京都港区南青山5丁目1番10-1105号

原告

中松義郎

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

奥村忠生

篠崎正海

幸長保次郎

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成5年審判第7621号事件について、平成7年6月29日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年11月15日、名称を「ひげ剃り兼用ライト」(後に「照明装置」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭61-270871号)が、平成5年3月3日に拒絶査定を受けたので、同年4月23日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成5年審判第7621号事件として審理し、平成6年7月27日に出願公告をした(特公平6-56721号)が、同年10月27日付けで深井清達名義で特許異議の申立て(以下「本件異議の申立て」という。)がされ、さらに審理した結果、平成7年6月29日、異議申立ては理由があるとの決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年8月22日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

上部が開口し、基台に直立して取付けた直筒体の下部に光源ランプを収容し、前記筒体側部に着脱自在に固定したアームの上部は前記光源ランプからの上向きの光を反射して照明光とする鏡を支持し、前記筒体の下部は順次小さくなり、その傾斜面には筒体内側と光源ランプとの間隙から筒体上部開口まではほぼ直上して通じる通気孔を設け、前記アームの上部は二つに分れて前記鏡をその両側で回動自在にはさみ、且つその回動中心が光源ランプの光軸上にほぼ位置するように支持して成る照明装置。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である米国特許第4337506号明細書(以下「第1引用例」といい、その発明を「引用例発明1」という。)、実公昭42-12611号公報(以下「第2引用例」という。)、実開昭60-46608号公報(以下「第3引用例」という。)、意匠登録第394306号公報(以下「第4引用例」という。)及び意匠登録第517842号公報(以下「第5引用例」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び各引用例の記載事項の認定、本願発明と引用例発明1との一致点、相違点の認定は認め、相違点の判断を争う。

審決は、上記特許異議申立人が実在しない(ないしは実在の人物の名をかたった架空のものである)から本件異議申立て自体が存在しないのに、これを看過して異議決定及び審決をし(取消事由1)、本願発明と引用例発明1との相違点(1)及び(2)の判断を誤り(取消事由2及び3)、その結果誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

1  取消事由1(異議申立自体の不存在)

本願に対する特許異議申立人は実在しない(ないしは実在の人物の名をかたった架空のものである)から、本件異議申立て自体が存在しない。

したがって、主体要件を欠く本件異議申立ては却下されるべきであり、また、架空の異議申立人の引用した公知文献に基づいて本願発明の進歩性を否定した審決には、手続の違法がある。

2  取消事由2(本願発明と引用例発明1との相違点(1)の判断の誤り)

審決は、本願発明と引用例発明1との相違点(1)、すなわち、「本願発明では、アームが直筒体側部に着脱自在に固定され、アームの上部は二つに分れて鏡をその両側で回動自在にはさみ支持するようにしているのに対し、第1引用例に記載のものは、そのようになっていない点」(審決書7頁6~11行)につき、第2、第3引用例に記載された公知事項から、「分解、組立を考慮して、鏡を支持したアームと直筒体とを着脱自在に固定することは当業者が容易になし得る設計事項というべきである。」(同8頁9~12頁)と判断しているが、誤りである。

本願発明のアーム5は、上部で鏡7を支持し、下部は筒体2側部に着脱自在に固定できるのみであるが、第2引用例(甲第4号証)の支持体3は、上部で鏡1を支持するが、下部は電球を囲む椀状体5に形成されており、また、第3引用例(甲第5号証)の支柱軸3も上部で反射板4を支持するも下部は本体1の球体挟持枠3aに形成されている。

これらより、本願発明ではアーム5そのものが光源ランプを収めた筒体2側部に着脱自在に取り付けてあるので、アームは容易に取り外して、筒体2のそばに添えることにより、全体装置の半分以下の容積となって箱に収められ、しかもランプ3は筒体2の中にあってそのまま保護されるので運送上きわめて有利である。

しかるに、第2引用例の支持体3は、電球6を包む椀状体5と一体のものであり、支持体3は椀状体5が付いているので本願発明のアーム5よりもかさばるものであり、椀状体を外せば電球6は露出しているので、本願発明に比して分解して運送するときにかさばるうえ、電球の破損防止措置が必要となる。また、第3引用例の支柱軸3は、その下部が大きな球体挟持枠3aに形成されており、電球2は露出しているので、前記と同じく分解して運送するときにかさばるうえ、電球の破損防止措置が必要である。

以上のように、第2、第3引用例のいずれも、本願発明とは構成、効果共に全く相違するものであるから、審決の前記判断は誤りである。

3  取消事由3(本願発明と引用例発明1との相違点(2)の判断の誤り)

審決は、本願発明と引用例発明1との相違点(2)、すなわち、「本願発明では、直筒体の下部が順次小さくなりその傾斜面に通気孔が設けられたものであるのに対し、第1引用例に記載のものは、円筒保護物48が直筒状であって、足50により、空気が入るよう基台上に少し高められた位置で保持されている点」(審決書7頁11~16行)につき、「第4引用例及び第5引用例にみられるように、光源ランプを収容した筒体下部を下方に傾斜する傾斜面を形成し、その周囲に放熱用の通気孔を設けた電気スタンドは広く知られた形状であるから、相違点(2)も当業者が容易になし得ることというべきである。」(同8頁12~17行)と判断し、さらに、「本願発明を全体としてみても、当業者の予測を越える顕著な効果を奏するものであるとは認められない。」(同8頁18~20行)と判断しているが、誤りである。

本願発明は、ランプ3の冷却空気流は、筒体2の下部の斜面の通気孔12から、ランプと筒体の間を長く直線状に直上するもので、その経路は筒体に沿う直上経路であるから、筒体2の上からは通気孔12が見える構造であり、ランプの熱により生じる誘因気流が入口から最も抵抗なく直上に抜けるもので、このような経路による煙突効果により、通気孔12から気流が熱いランプ3を直接包みながら冷却して上部開口に流れてランプの冷却が十分に行われ、また、筒体2の下部の斜面も冷却されるので、斜面のくびれを把持して持ち運びもできるのである。

これに対し、引用例発明1においては、第1引用例(甲第3号証)の第4図~第6図にみられるように、円筒48下端と基盤43との間の横の間隙から空気が横から入って曲がり、ランプを囲む反射器44と円筒48の間を昇るので、気流の流路は曲がるので抵抗が大きく、また、入った空気は本願発明のように熱いランプに直接接触せず反射器44に接触するので、本願発明に比し気流による光源ランプの冷却効果は劣るものであり、したがって、本願発明の煙突効果が意図されたものとは認められず、本願発明とは構成及び効果が全く異なる。

また、第4引用例(甲第6号証)及び第5引用例(甲第7号証)のものは、ケースの下斜面に通気孔はあるが、いずれも囲いの上部がすぼまり、十分な開口がなく、特に通気孔の直上に開口らしきものがなく、さらに電球が示されていないので、本願発明にいう照明装置として使用されているものかどうか不明であり、さらに本願発明の空気流入孔12の位置は上部開口部を上から見て内側にあり、第4、第5引用例のものはいずれも外側にあり、本願発明とは思想的にも、構造的にも異なるものである。

本願発明の煙突効果については、第1、第4、第5引用例のいずれにも示唆されておらず、これらを合わせたとしても、容易に得られる効果ではないから、審決の前記判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願発明は、平成6年7月27日に出願公告された後、特許異議申立期間内である同年10月27日に深井清達により本件異議申立てがあり、同年11月28日に同人から特許異議申立理由補充書の提出があった。

審判長は、平成7年3月1日、特許異議申立書(上記特許異議申立理由補充書により補正されたもの、以下同じ。)の副本を原告(特許出願人)に送付し、答弁書を提出する機会を与えたところ、原告は、同年5月1日に答弁書を提出して答弁している。

上記特許異議の審理において、原告から、異議申立人が不存在であり、異議申立ては却下されるべきであるとの主張立証はなされていない。

また、特許法(平成6年法律第116号による改正前のもの)58条4項の規定に、特許異議決定に対しては不服を申し立てることができないと規定されている。

したがって、本件特許異議申立てが不適法なものであるから審決は取り消されるべきであるとの原告の主張は理由がない。

2  取消事由2について

第2引用例(甲第4号証)には、上部が二つに分かれた支持体の両側で鏡の周縁部を回動自在にはさむようにしたライト付き鏡において、支持体を椀状体を介して把手部から容易に着脱し得る構成が記載されており、また、第3引用例(甲第5号証)には、一本の弾性体からなる支柱軸の上部に反射板を装着した電気スタンドにおいて、その支柱軸の下端に形成した弾性力を有する挟持枠に電気スタンド本体の周面部が着脱自在に嵌合することが記載されている。

したがって、反射板を取着した支持体又は支柱軸の取付け取外しが容易に行えるようにすること及び支持体又は支柱軸を取り外せば、照明装置全体の容積がかさばらないようになることは、上記各引用例に示されているということができる。

ところで、本願明細書(甲第2号証)には、原告が主張するような「アームは容易に取り外して、筒体2のそばに添えることにより、全体装置の半分以下の容積となって箱に収められ、しかもランプ3は筒体2の中にあってそのまま保護されるので運送上きわめて有利である。」という作用効果についての記載はなく、また、分解及び保管状態における直筒体とアームとの関係を特定すべき開示はなく、それらを推測できる作用効果についての記載もなく、この点についての原告の主張は理由がない。

したがって、分解、組立及び運送を考慮に入れて、鏡を支持したアームと直筒体とを着脱自在に固定することは当業者が容易になしうる設計事項というべきであるとした審決の判断に誤りはない。

原告は、第2引用例記載の椀状体を支持体から外せば電球が露出し、また第3引用例の電球も露出しているので、運送するとき電球の破損防止が必要であると主張するが、第1引用例には基盤に直立して取り付けた上部が開口する円筒保護物の下部に光源が収容されていて回動自在な反射鏡を有する照明装置が記載されており、その光源が円筒保護物で囲まれて収容されている以上、本願発明と引用例発明1とは運送時の電球の破損防止措置において格段の差があるものではない。

3  取消事由3について

第1引用例(甲第3号証)には、外気が光源を冷やすために入るように足により基盤上に少し高められた位置に直筒体の円筒保護物を保持することが示されている。すなわち、審決が本願発明と引用例発明1とを対比して認定した(審決書6頁9~14行、18~20行)ように、通気手段を有する引用例発明1の円筒保護物もその下方から流入した外気が光源を冷却して上方に向けて流れる煙突効果を奏することは明らかであり、また、第1引用例には、反射器を円筒保護物と一体に組み込んでもよいこと(同号証訳文3枚目11~13行)が記載されていることを考慮すると、光源が反射器で囲まれているか否かの選択は、単なる設計変更にすぎないというべきである。

したがって、引用例発明1の円筒保護物は、光源の冷却機能を有し、煙突効果を奏することは明らかであり、審決の判断に誤りはない。

第4引用例(甲第6号証)及び第5引用例(甲第7号証)には、筒体の下部を下方に傾斜する傾斜面を形成し、その周囲に放熱用の通気孔を設けた電気スタンドが示されており、審決は、そのような筒体の下部の構成をした電気スタンドは広く知られた形状であるから、光源ランプを収容する直筒体の下部が順次小さくなりその傾斜面に通気孔を設ける程度のことは、当業者が容易になしうることと判断したものである。

また、電球の直筒体からの上向き光を鏡により反射して照明光とすることは、審決が本願発明と引用例発明1とを対比して認定している(審決書6頁15~18行の〈1〉及び〈2〉)ところであり、この点についての原告の主張は理由がない。

以上のことから、審決は、本願発明の効果について、「当業者の予測を越える顕著な効果を奏するものであるとは認められない。」としたものである。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(異議申立自体の不存在)について

原告は、本願に対する特許異議申立人は実在しない(ないしは実在の人物の名をかたった架空のものである)から、本件異議申立て自体が存在せず、主体要件を欠く本件異議申立ては却下されるべきであり、また、異議申立人の引用した公知文献に基づいて本願発明の進歩性を否定した審決には手続の違法がある旨主張する。

しかし、平成6年法律第116号による改正前の特許法において認められていた特許異議申立制度は、出願公告があったときは、何人も、特許庁長官に特許異議の申立てをすることができる旨定められていた(同法55条1項本文)ことからもうかがわれるように、利害関係の有無にかかわらず何人でも異議の申立てができるものとすることによって、出願の審査の過誤を排除し、その適正を期するという公益的見地から設けられたものであり、したがって、異議申立人が引用した公知文献は、審査官が職権で調査する契機になるものにぎず、審査官が自ら調査し、引用例とすることが可能なものである。一方、法定の異議申立期間内に適法な特許異議の申立てがない場合においても、審査官は、必ずその特許出願について特許すべき旨の査定をしなければならないものではなく、拒絶をすべき査定をする場合もあることは、同法62条の規定するところであり、これら異議申立てに関する規定は、拒絶査定不服審判手続に準用されている(同法159条)。

そして、本件においては、事実として深井清達名義の異議申立てがなされていることは当事者間に争いがなく、原告(出願人)には異議申立書(甲第10号証)が送付され、これには、審決が公知の文献として引用した第1~第5引用例に基づく異議理由が記載されており、これに対し、原告(出願人)が特許異議答弁書(甲第12号証)を提出して異議申立て理由につき具体的な反論をしていることが認められ、これによれば、本願発明が第1~第5引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたかどうかについて実質的な防御が行われたことが明らかである。

したがって、原告主張の異議申立人が実在するか否かという問題が、審決の適否に影響を及ぼすものとは認められないから、原告の主張は採用することができない。

取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(本願発明と引用例発明1との相違点(1)の判断の誤り)について

本願発明と引用例発明1とが、審決認定のとおり、「〈1〉上部が開口し、基台に直立して取付けた直筒体の下部に光源ランプを収容した点、〈2〉アームの上部に光源ランプからの上向きの光を反射して照明光とする鏡を支持した点、〈3〉直筒体の内側と光源ランプとの間隙から筒体上部開口まではほぼ直上して通じる通気手段を設けた点、〈4〉鏡をその回動中心が光源ランプの光軸上にほぼ位置するように支持して成る照明装置である点で一致し」(審決書6頁15行~7頁2行)、審決認定の相違点(1)、(2)の点で相違すること(同7頁6~16行)は、当事者間に争いがない。

この相違点(1)、すなわち、「本願発明では、アームが直筒体側部に着脱自在に固定され、アームの上部は二つに分れて鏡をその両側で回動自在にはさみ支持するようにしているのに対し、第1引用例に記載のものは、そのようになっていない点」(同7頁6~11行)に関し、第2引用例及び第3引用例に審決認定の記載事項があること(同4頁2行~5頁2行)は、当事者間に争いがない。

これらの記載事項によれば、審決認定のとおり、第2引用例には、「上部が二つに分かれた支持体3の両側で鏡の周縁部を回動自在にはさむようにしたライト附鏡において、支持体3を椀状体5を介して把手部7から容易に着脱し得る構成」(同7頁19行~8頁2行)が、また、第3引用例には、「一本の弾性体からなる支柱軸の上部に反射板を装着した電気スタンドにおいて、その支柱軸の下端に形成した弾性力を有する挟持枠に電気スタンド本体の周面部が着脱自在に嵌合すること」(同8頁3~7行)が、それぞれ開示されていることが認められる。

すなわち、相違点(1)に係る本願発明の構成のうち、「アームの上部は二つに分れて鏡をその両側で回動自在にはさみ支持するようにしている」点は第2引用例にみられる公知の構成であるから、この公知技術を適用して本願発明の構成とすることは当業者にとって容易であり、また、鏡若しくは光を反射する反射板の支持体を照明器具本体に対して着脱自在に固定することは第2、第3引用例に開示されているところであるから、これら公知の技術に基づき、アームの取付位置を考えて、その取付位置を照明器具本体に属すると認められる引用例発明1の円筒保護物(本願発明の「直筒体」に該当することは、当事者間に争いがない。)とし、これにより、相違点(1)に係るその余の構成である本願発明の「アームが直筒体側部に着脱自在に固定され」る構成とすることも、当業者が容易にできる事項にすぎないと認められる。

原告は、本願発明の効果としてアームを取り外して直筒体のそばに添えることにより、全体装置の半分以下の容積になって箱に収められるとの効果を主張するが、本願発明の要旨に示す構成では、このような効果が必ず達成できるものとは認められないし、本願発明の効果として本願明細書(甲第2号証)に記載されている「極めて容易に分解し、又は組立てることができ、輸送や保管上便利である」(同号証4欄19~20行)との作用効果は、第2、第3引用例に開示されている上記鏡若しくは光を反射する反射板の支持体を照明器具本体に対して着脱自在とする構成から容易に予測できる程度のものにすぎないことが明らかである。

また、原告は、第2、第3引用例のものは支持体を照明器具本体から取り外すと電球が露出するので運送の際電球の破損防止措置が必要であり、本願発明における効果と相違する旨主張する。しかし、引用例発明1と本願発明との一致点である前示「〈1〉上部が開口し、基台に直立して取付けた直筒体の下部に光源ランプを収容した」構成において、第2、第3引用例に開示されている公知の技術から容易に推考できる前示「アームが直筒体側部に着脱自在に固定され」る構成を採用し、本願発明の構成とした場合には、アームを照明器具本体から取り外しても光源ランプが露出しない効果を生ずることは明らかであって、原告の上記主張の点は、引用例発明1に第2、第3引用例に開示された公知の技術を適用することの妨げとなるものではない。

取消事由2は理由がない。

3  取消事由3(本願発明と引用例発明1との相違点(2)の判断の誤り)

当事者間に争いのない審決認定の相違点(2)、すなわち、「本願発明では、直筒体の下部が順次小さくなりその傾斜面に通気孔が設けられたものであるのに対し、第1引用例に記載のものは、円筒保護物48が直筒状であって、足50により、空気が入るよう基台上に少し高められた位置で保持されている点」(審決書7頁11~16行)にっき、第4、第5引用例に、順次小さくなる筒体の下部の傾斜面の周囲に複数の通気孔を設けた電気スタンドが記載されていること(審決書5頁3~18行)は当事者間に争いがなく、これによれば、照明器具において光源ランプを収容した筒体下部を上記の形状とし、通気のための通気孔を設ける構成は周知の構成ということができ、この構成を引用例発明1の直筒体の下部に適用して相違点(2)に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できることと認められ、この構成とした場合に、原告の主張する通気による煙突効果が得られるであろうことも当業者であれば当然に予想できることというべきである。

原告は、引用例発明1は本願発明に比し気流による光源ランプの冷却効果は劣るものであり、したがって、本願発明の煙突効果が意図されたものとは認められない旨主張する。

しかし、引用例発明1が、審決認定のとおり、「足50により、基盤43上に少し高められた位置で円筒保護物48を保持し、外気が該円筒保護物48に入るようにし、さらに、円筒保護物48と光源42との間に間隙を設けて導入した外気にて光源42を冷す通気手段を備えた照明装置」(審決書3頁16行~4頁1行)であることは、当事者間に争いがなく、これによれば、引用例発明1の構成から原告のいう煙突効果が生ずることは明らかであり、煙突効果が意図されていないということはできない。第4、第5引用例においても筒体下部に通気孔が設けられている以上、同様に煙突効果が生ずることは明らかであり、煙突効果が意図されていないということはできない。

また、第1引用例(甲第3号証)によれば、その第4図の実施例において、光源42には放物線状反射器44が設けられているが、引用例発明1がこの放物線状反射器44を必須の構成とするものでないことは、これにつき「好ましくは放物線状反射器44を介して」(同号証訳文6枚目8~9行)と記載され、第1図の実施例につき、「もし反射器15が全体的に反射するならば、反射器を拡散器13と一体にしてもよい」(同3枚目11~13行)と記載されていることから明らかである。この放物線状反射器44を省略した場合についてみると、光源42を内包した円筒保護物48は筒状で直立しており、その下部は足50により間隙を形成して基盤43に設けられているものであるから、流入した外気は光源に接触して円筒保護物内側を直上し広い上部開口に抜けるものと認められ、光源の冷却効果において、本願発明と差異があるものとは認められない。

その他原告が主張するところは、第1、第4、第5引用例個々について本願発明と相違することをいうのみであり、相違点(2)に係る本願発明の構成が上記各引用例から容易に想到できるものである以上、このような主張が審決の判断を誤りとする理由にならないことは明らかであり、採用できない。

取消事由3も理由がない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成5年審判第7621号

審決

東京都港区南青山5丁目1番10-1105号

請求人 中松義郎

昭和61年特許願第270871号「照明装置」拒絶査定に対する審判事件(平成6年7月27日出願公告、特公平6-56721)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

(手続の経緯、本願発明の要旨)

本願は、昭和61年11月15日に出願されたものであって、その発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「上部が開口し、基台に直立して取付けた直筒体の下部に光源ランプを収容し、前記筒体側部に着脱自在に固定したアームの上部は前記光源ランプからの上向きの光を反射して照明光とする鏡を支持し、前記筒体の下部は順次小さくなり、その傾斜面には筒体内側と光源ランプとの間隙から筒体上部開口まではほぼ直上して通じる通気孔を設け、前記アームの上部は二つに分れて前記鏡をその両側で回動自在にはさみ、且つその回動中心が光源ランプの光軸上にほぼ位置するように支持して成る照明装置。」

(引用例)

これに対して、当審における特許異議申立人が甲第1号証として提出した、本願の出願日前に頒布された米国特許第4337506号明細書(以下、第1引用例という。)には、特に第4図及びその説明を参酌すると、上部が開口し、基盤43に直立して取付けた円筒保護物48の下部に光源42を収容し、前記基盤にそれから上方に延びる支柱49を固定し、支柱49はランプかさ52を支える頂上アーチ51により結合され、該アーチの下で上方に支持部材54とその下方に支持部材53とを支柱49に配設し、該支持部材54に自在軸受け連結器56を設け、これに支持体57をつるし、該支持体57に設けた枢軸連結器58に反射鏡46、47を連結し、鏡は360°の回動ができるので、該鏡を光源に向けて傾斜させ、光源からの上向きの光を反射させるようにすれば、一定領域に光が集中し、読書用に使用することができ、また、足50により、基盤43上に少し高められた位置で円筒保護物48を保持し、外気が該円筒保護物48に入るようにし、さらに、円筒保護物48と光源42との間に間隙を設けて導入した外気にて光源42を冷す通気手段を備えた照明装置が記載されているものと認める。

また、同じく甲第6号証として提出した実公昭42-12611号公報(以下、第2引用例という。)には、鏡の周縁部を上部が二つに分かれたその両側で回動自在にはさみ支持する支持体3と、該支持体を固定すると共に、電球6を収容する椀状体5と、該椀状体を容易に着脱し得る把手部7を具えた台座8とを設けたライト附鏡であって、鏡が水平軸を中心として自由に回動し、任意の位置に静止するので、鏡として使用でき、電球に向けて反射させるようにすれば、電球からの上向きの光を反射集束させ読書用にも使用できることが記載されているものと認める。

また、同じく甲第9号証として提出した実開昭60-46608号公報(以下、第3引用例という。)には、電球を取付けた球体の電気スタンド本体と、反射板と、一本の弾性体からなる支柱軸とから構成され、支柱軸の下端に電気スタンド本体の周面部を弾性力によつて着脱自在に嵌合させる挟持枠を形成するとともに支柱軸の上端に反射板を取着した電気スタンドが記載されているものと認められる。

また、同じく甲第3号証として提出した意匠登録第394306号公報(以下、第4引用例という。)には、その正面図ほかからみて、上部が開口し、下部は順次小さくなるよう筒体を形成し、該筒体を基台に直立して取付け、そして、順次小さくなる筒体の下部の傾斜面の周囲には複数の通気孔が設けられている電気スタンドが開示されているものと認められる。

また、同じく甲第4号証として提出した意匠登録第517842号公報(以下、第5引用例という。)には、上部に通気孔を設け、下部は順次小さくなるよう筒体を形成し、該筒体を基台に直立して取付け、そして、順次小さくなる筒体の下部の傾斜面の周囲には複数の通気孔が設けられている電気スタンドが開示されているものと認められる。

(対比)

本願発明と第1引用例に記載されたものとを対比すると、第1引用例に記載の「円筒保護物48」、「光源42」、「支柱49」、「反射鏡46」は、本願考案の「直筒体」、「光源ランプ」、「アーム」、「鏡」にそれぞれ相当し、第1引用例に記載の「鏡を光源に向けて傾斜させ、光源からの上向きの光を反射させるようにすれば、一定領域に光が集中する」作用を奏するためには光源の光軸を鏡の回動中心に決めることは自明の事項であり、また第1引用例の照明装置は、足50により、基盤上に少し高められた位置で円筒保護物48を保持することによって外気が該円筒保護物48内に入るようにするとともに、円筒保護物48と光源42との間に間隙を設けて導入した外気にて光源42を冷すものであると認められるので、両者は、〈1〉上部が開口し、基台に直立して取付けた直筒体の下部に光源ランプを収容した点、〈2〉アームの上部に光源ランプからの上向きの光を反射して照明光とする鏡を支持した点、〈3〉直筒体の内側と光源ランプとの間隙から筒体上部開口まではほぼ直上して通じる通気手段を設けた点、〈4〉鏡をその回動中心が光源ランプの光軸上にほぼ位置するように支持して成る照明装置である点で一致し、さらに、本願発明の技術的課題と認められる「読書、ひげそり、化粧などに使用し得る多目的照明装置」である点で技術的課題及び機能においても第1引用例に記載の発明と共通している。二方(1)本願発明では、アームが直筒体側部に着脱自在に固定され、アームの上部は二つに分れて鏡をその両側で回動自在にはさみ支持するようにしているのに対し、第1引用例に記載のものは、そのようになっていない点、(2)本願発明では、直筒体の下部が順次小さくなりその傾斜面に通気孔が設けられたものであるのに対し、第1引用例に記載のものは、円筒保護物48が直筒状であって、足50により、空気が入るよう基台上に少し高められた位置で保持されている点で相違する。

(当審の判断)

上記相違点について検討する。第2引用例には、上部が二つに分かれた支持体3の両側で鏡の周縁部を回動自在にはさむようにしたライト附鏡において、支持体3を椀状体5を介して把手部7から容易に着脱し得る構成が記載されており、また、第3引用例には、一本の弾性体からなる支柱軸の上部に反射板を装着した電気スタンドにおいて、その支柱軸の下端に形成した弾性力を有する挟持枠に電気スタンド本体の周面部が着脱自在に嵌合することが記載にみられるように、反射板を取着した支柱軸の取付け取外しか用意に行えるようにすることは、公知であるから、分解、組立を考慮して、鏡を支持したアームと直筒体とを着脱自在に固定することは当業者が容易になし得る設計事項というべきである。また、第4引用例及び第5引用例にみられるように、光源ランプを収容した筒体下部を下方に傾斜する傾斜面を形成し、その周囲に放熱用の通気孔を設けた電気スタンドは広く知られた形状であるから、相違点(2)も当業者が容易になし得ることというべきである。

本願発明を全体としてみても、当業者の予測を越える顕著な効果を奏するものであるとは認められない。

(むすび)

したがって、本願発明は、第1乃至5引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年6月29日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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